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クレーの作品は、つねに「現実世界」とつながりをもっていた。そしてその「現実世界」が、さまざまにかたちをかえていく。「アーティストは木のようなもんさ。「根っこ」があってはじめて生きている。そこから栄養をとる。だけど、木とはべつもの。現実の世界に刺激され、目には見えない「内なる世界」を、アーティストはキャンバスのうえに表現する。」ふだんは見のがしてしまうような現実の世界を、クレーの作品は、拡大鏡を通してみせてくれる。
「抽象の世界」と「音楽的なハーモニー」。これが展示会のテーマだ。クレーは、音楽家の息子。そして彼自身、スイス・ベルン市交響楽団の第一ヴァイオリニストだった。じきにクレーは、絵の世界でも音楽的な表現をしめすようになる。この生来の音楽性が、クレー作品のひみつ。ひととなりはきわめて私的。音楽的なテーマやタイトルをこのむ。スタイルは、「記号による擬態」。際限なく形式を壊しては成長していこうとする、表現形態のさまがわりの速さ。しかもクレーの作品は、現実や時間を超越して、別次元のなにものかにダイナミックに変容する。
クレーの人生と創作にちからをあたえたみっつの場所がある。ミュンヘン、パリ、チュニジア。ミュンヘンでカンディンスキー(1866-1944)と親交をもち、それから、ブロー・ロイターらのグループに近づいていった。そこで未来派や表現主義派と知り合うようになる。パリでは、ピカソの作品に出会う。パリはクレーの創作活動を爆発させた。一方、アフリカと地中海の光が、クレーの作品に色彩をあたえる。
「わたしと色彩はひとつのものです。」ひかりに満ち、澄みきった色彩は、クレー作品を特徴づける。1898年から1908年にかけてのクレーの日記帳、あるいは後年、教鞭をとっていたバウハウス(1919年-33年、芸術と技術の統合を目指したドイツの学校。)での講議録のなかに、クレーのたえまない表現法の探究のあとを見ることができる。講義録から引用してみる。
「これがクレーのスタイルだと言うのはとてもむずかしいと、ミケーレ・ダンティーニが、カタログの序文で述べています。これはなにもめずらしいことではありません。スタイルがたえまなく変化するというのは、もしかすると技法を適用する作家の性格かもしれません。あるいはたんなる偶然で、技法がそのたびにかわっていくとしても、おどろくにはあたりません。いずれにしても、作品とアーティストは別もの。なんらかのエピソードが作品のなかにうかがえるかもしれない、というほかは、アーティストから作品を類推するということはできません。」「モザイクや、織物、金細工、コラージュといった伝統的な工芸を、鉛筆や、水彩、テンペラ、油彩をつかって模倣するという、いっしゅのあそびに興じているんです。」
「動揺」(1934年 テンペラと木炭・画布 額縁なし)ほか、著明作品がひしめく。「ピエロ」(1929年)。「夜のパーティー」(1921年 油彩・紙)。「むずかる赤ん坊」(1923年)。「わたしの家のうえの月」(1927年 ペン・紙)。幾何学的な「茶色の点」(1914年 水彩・紙)。「赤い雲」(1928年 インクと水彩・紙)。「夜警をする若い男」(1933年 油彩と鉛筆・麻)。クレーの作品は、とても洗練されているとともに、「線」が、重要な意味をもっている。作品のなかにはいろいろなコンセプトが閉じ込められていて、なぞときに、無限の想像力をかきたてられる。
(フェデリーカ・デ・マリア Exibart 2000.10.25.)
○ トリノ近代・現代美術館 パウル・クレー展 >>> (クレーの絵をクリックすると展示会の項目につながり、いくつかの作品がみられます。)
○ トリノ近代・現代美術館(GAM
: Galleria d’Arte Moderna e Contemporanea di Torino)(美術館のサイト:イタ語) >>>